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CASE39−4 カーテン越しの出産

次の日、

 

出直して病院に行きました。

 

その日も病院はとても混んでいました。

 

「今日は帝王切開できるのですか?」

 

と聞くと、

 

執刀医が

 

「今日はできますよ。」

 

と言ってくれて、

 

前室のようなところに案内されました。

 

そこはカーテンで仕切られている部屋で、

 

なんとカーテン越しに誰かのお産が始まったのです。

 

その人は麻酔をしていない人で、

 

獣のような雄叫びと、

 

「だめ、できない!!私にはできない!!」

 

という妊婦さんと

 

「できる!あなたならできる!」

 

というやりとりが聞こえ始めました。

 

夫と二人で顔を見合わせ

 

「わぁ〜!

 

怖い、怖い!

 

どうしよう、

 

私もこれからこの人と同じようなことをするの?」

 

と、

 

それまでは安定していたメンタルが、

 

このことによって崩れ緊張してきました。

 

その方の赤ちゃんは無事に産まれたのですが、

 

「良かったね、

 

おめでとう!

 

これから私も行ってくるね。」

 

と心の中で思いながら待機していました。

 

 

麻酔科の医師と話した時に、

 

最近家族を亡くして

 

メンタルが不安定だと言うことを伝えました。

 

全身麻酔をしている間に

 

心臓が耐えられず亡くなってしまったので、

 

全身麻酔にとても恐怖感があったのです。

 

麻酔科医は

 

「話してくれてありがとう。

 

少し安心できるお薬を入れておくね。

 

ほろ酔い出産みたいになるけれど、

 

その方がリラックスできていいんじゃないかな?」

 

と提案してくれたのです。

 

その後、

 

夫とともに手術室に入りました。

 

手術室に入った瞬間、

 

恐怖にフォーカスしてしまうと、

 

何も良いことは起こらないと思っていたので、

 

プロフェッショナルに囲まれていて、

 

万が一のことがあっても対応してもらえる環境にいるから、

 

言われた通りに従っていれば大丈夫と思うようにしていました。

 

腰椎麻酔が入り、

 

痛みは無いものの、

 

赤ちゃんをとり出す時にグイグイと押されるということは知らなかったので、

 

「こんなに押されて、

 

大丈夫なの?」

 

と驚きました。

 

けれど、

 

ほろ酔いの効果なのか、

 

パニックになったりはしませんでした。

 

 

周りの看護師さんも話しかけてくれていて、

 

お話をしている間に

 

「もうすぐ産まれますよ。」

 

という声が聞こえました。

 

その時、

 

私の体は震えていました。

 

第一子を出産して、

 

何年も経ってから医療関係者に手術室が寒くて震える人も多いし、

 

麻酔の副作用でも震えるということを教えてもらいました。

 

ですが、

 

当時はそんなことは知らず、

 

長年そのことが自分の中で引っかかっていました。

 

経腟分娩であっても帝王切開であっても、

 

人生で一番幸せな瞬間だと思っていたのに、

 

そんな瞬間に震えてしまっている自分は

 

「赤ちゃんを産むのが怖いのか?

 

大丈夫なのか?」

 

と思ってしまい、

 

自分の母性に対する不安を抱いていました。